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No.023「瑞友会賞社会部門授賞を感謝いたします」

[会報122号(2014年9月29日発行)より]

名古屋市立大学 医学研究科 細胞分子生物学 教授 岡本 尚

このたびは名誉ある瑞友会賞(社会部門)を授けられ、光栄に存じます。

科学技術の進歩は、元来人類の福祉と健康のために使われるべきものでありますが、まれに人類の生命と財産を及ぼし、国や社会の秩序を混乱させるために用いられる場合があります。このことを「デュアルユースdual use問題」と呼びます。近年の遺伝子工学の進歩やインターネットなどで代表される情報通信技術の進歩や発展に伴って特に生物学や医学の分野で深刻さを深めました。私たちは日本学術会議第二部(医学・生物学)の病原体分科会の中から新たに「病原体研究のデュアルユース問題」検討のための分科会(岡本 尚委員長)を立ち上げ、足掛け3年間にわたり審議を尽くし、その結果を「提言」としてまとめ、2014年1月23日に発出いたしました。この機会にその骨子をご説明します。

デュアルユース問題についての懸念と科学者の新たな責務は2011年の「科学者の行動規範(改訂版)」で初めて触れられ、2012年に日本学術会議の分野横断的な課題別委員会「科学・技術のデュアルユース問題に関する検討委員会」から検討報告書が提出されました。これらの文書は全て日本学術会議のホームページからダウンロードできます(http://www.scj.go.jp/ja/info)。

当分科会からの提言は、今後研究・教育・行政に生かされて行くべき性質のものですが、この機会にその概略をご紹介します。
懸念の持たれる病原体研究としては次の7項目が上げられます。1) ワクチンの無効化、2) 有用抗菌剤等への耐性獲得、3) 微生物の毒性増強、4) 病原体の伝染性増強、5) 病原体の宿主域の変更、6) 病原体の検知抵抗性、7) 病原体や毒素の兵器化、です。

これに対して、国際アカデミア(International Academy Panel; IAPから2005年に緊急提出された提言では次の5項目を上げました(これをIAP の5原則、と呼びます)。1) 研究者自身が危険性を認知する事、2)施設安全管理を徹底する事、3) 責任体制を確立する事、4) 研究者への教育や訓練と地域住民に説明をすること、5) 監督責任は各施設責任者にあること、の5項目です。

以上の議論と度重なる委員会審議を踏まえて、当分科会からの提言では、次の4項目を述べました。1)上記IAPの5原則の遵守、2) 過剰規制への懸念と近縁分野からの情報提供、3) 過剰な情報公開への懸念、4) 自主管理手段の提案、の4点です。特に、具体的な「自主管理手段」としては各大学・研究機関毎に状況が異なることを踏まえ、法令化する事なくあくまで既存の自主管理の枠組みを使って効率よく迅速に管理体制を整備 する旨を提言しました。

名市大では「まず、隗より始めよ。」というスタンスで、迅速な対応を望む次第です。それによって名市大モデルが全国に広まれば、さらに本学の名声と主導性が全国に広まる良き機会であろうと思います。ご理解とご支援をお願い申し上げる次第です。

略歴

1953年2月
愛知県安城市生まれ
1971年3月
愛知県立岡崎高校卒業
1977年3月
慶応義塾大学医学部卒業
同年4月
同 内科学教室に入局(のちに助手)
1983年8月
米国国立がん研究所に留学
1983年9月
国立がんセンター研究所
(1985年2月よりウイルス部室長)
1993年7月
名古屋市立大学医学部教授(分子遺伝学)
名古屋市立大学大学院医学研究科教授(細胞分子生物学)
主な授賞歴
国立がんセンター田宮賞(成人T細胞白血
病の多段階発癌モデルの証明)
日本リウマチ学会賞(関節リウマチ発症における転写因子NF-κBの関与)