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No.003「教授就任挨拶」

[掲載日:2009年6月15日]
臨床病態病理学 教授 稲垣 宏(S59年卒)

2008年12月1日付けで、臨床病態病理学分野教授に就任しました。また名古屋市立大学病院におきましては病理部長(兼任)を拝命しましたので、瑞友会の皆様にご報告申し上げます。これまで多くの方々から賜りましたご支援、ご厚情に対しまして、紙面をお借りし深く御礼申し上げます。臨床病理学教室は2講座制となってから50余年、長与健夫教授(1956年就任)、岸本英正教授(1965年就任)、そして栄本忠昭教授(1989年就任)と引き継がれてきました。当教室ではさまざまな疾患の病態生理を研究するとともに、免疫組織学的、分子生物学的手法を用いて精度の高い病理診断を行い、患者さんや臨床の先生方に直接的に貢献できる病理学を目指しています。今回、伝統ある教室を担当することになり、その責務の重大さをますます実感しております。

私は名古屋市立大学を卒業後約7年間、同医学部第1外科学教室(故由良二郎教授)にて臨床研鑽を積みました。1989年にはBritish Council Fellowshipを得て、ロンドンに1年間、留学する機会を得ました。初めの3ヶ月は、大腸肛門外科で有名なセントマークス病院にて臨床研修を行い、その後の9ヶ月は、英国王立医学大学院病理学教室 (Julia M. Polak教授)にて研究に従事しました。この年はベルリンの壁が壊れ、ヨーロッパはまさに激動の渦の中にありましたが、私は昼すぎに研究室に行き、早朝に自宅に戻るという生活をしていました。研究期間は比較的短かったのですが、筆頭2論文と共著1論文を発表することができました。

外科や留学を通じて病理学の重要性や奥深さを実感しました。そんな折、栄本教授にお誘いいただき、病理医の道を歩むことになりました。卒後7年目の転身ということで不安もありましたが、栄本教授をはじめ、多田豊曠助教授(現・名古屋市立大学看護学部教授)のご指導により、病理専門医試験に合格することができました。臨床病態病理学教室での研究テーマは「分子生物学的手法を用いた病理診断の客観化および精度向上」であり、これは今日まで続いているテーマです。分子生物学については当時第2生化学教室の野中勝先生(現・東京大学理学部教授)に指導していただきました。当時、病理診断用に処理された病理検体は、核酸の高度断片化により分子生物学的解析には不適当とされていました。しかしながら、臨床の場では凍結組織が保存されていることは稀であり、また診断に用いられた病理検体を直接利用することは極めて重要です。われわれは解析範囲を短く絞り込めば、(RT-)PCRが可能であることを明らかにし、診断用病理検体を用いた分子病理診断法を発表し、遺伝子異常の持つ臨床病理学的意義の解明に努力してきました。悪性リンパ腫(特にMALTリンパ腫)、滑膜肉腫、粘表皮癌などに対して確立した遺伝子診断法は現在でも診断に応用しています。最近では、FISH法を積極的に活用し分子病理診断の幅を広げています。また高度先進医療の開発にも積極的に関与していきたいと考えており、上田龍三教授(腫瘍・免疫内科学)が統括してみえる「成人T細胞性白血病に対する抗CCR4抗体を用いた新規分子標的療法の開発」では、病理組織判定委員会の一人として参画させていただいています。

私が教授に就任した2008年は、日本の病理学においてふたつの大きな変化がありました。ひとつは、「病理診断科」が診療標榜科名と認められ、他の診療科と一緒に院外に広告が可能となったことです。これにより病理医が開業することが法制度上可能となりました。少数ですが、すでに開業された病理の先生がみえると聞いています。ふたつめは、診療報酬においてそれまで第3部「検査」に含まれていた「病理診断」が第13部として独立したことです。これまで検査の一部として見られがちだった「病理診断」が第13部の創設により、病理専門医による医行為であることが明確に示されました。このように病理学は「基礎医学」として医学全体の発展に貢献する一方、「臨床医学」的側面を強くしています。この流れを学部教育(病理学授業・選択制臨床実習)、医師臨床研修、臨床病理検討会などを通じて、多くの方に理解していただけるよう尽力していきたいと考えています。

今後、微力ではありますが、名古屋市立大学医学部、大学院医学研究科、瑞友会の発展のためにできる限りの努力をしていきたいと思います。瑞友会の会員の皆様におかれましては、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。