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No.000 「医学研究の魅力—法医学にて」

[掲載日:2009年6月15日]

磯部 一郎氏
藤田保健衛生大学医学部
法医学講座
磯部 一郎

平成20年3月1日付けで藤田保健衛生大学医学部法医学講座教授を拝命いたしました。瑞友会の諸先生並びに関係の皆様にはこれまでに多大なご支援・ご厚情を賜り、厚く御礼を申し上げます。今回同窓会誌に拙文掲載の機会を与えていただきましたので、一言ご挨拶を申し上げます

私は昭和62年に名市大を卒業後、当時故和田義郎先生が主宰しておられた小児科学教室に入局し臨床研修をさせていただきました。そのときの指導医の御一人であった故加藤泰治先生が分子医学研究所生体制御部門の教授に就任されたことをきっかけに、学生時代より強く興味を抱いていた神経科学の基礎研究を志し、加藤先生の門を叩きました。現分子研生体制御部門教授の浅井清文先生にも小児科・分子研を通じてご指導をいただいております。

その後米国留学などの機会を得ましたが、研究活動を継続するには大変困難な時期がありました。そのようなとき、加藤先生を通じて名市大法医学教室助手のお話をご紹介いただき、長尾正崇教授のもと、法医学の研鑽をはじめることとなりました。

法医学を専攻するとは夢にも考えておらず、全く無知であった私をご指導いただいた長尾先生から、「法医学では死の病態生理の研究が重要である」由のお話を伺ったときは、法医学における病態生理という意味が理解できませんでした。いずれにしろ何らかの研究活動は続けられそうな状況をとりあえずうれしく思ったものでしたが、今考えますと身に余る環境を与えていただいたことを痛感し、長尾先生並びに名市大法医学教室の皆様には深く感謝申し上げる次第です。

その後、縁あって元名市大法医学教授であられた大阪大学的場梁次教授のもとで法医学を続けることになりました。法医学は社会医学であるせいか、その有り様には土地柄がかなり影響するように思います。名古屋では経験しなかった様々な出来事に見舞われ、あたふたしているうちに数年が経過してしまいました。加藤先生が「法医のニューロサイエンシストに」と仰ったこともだんだんと遠のくような心持ちでした。しかし大阪でも教室の先生方や学生さんに助けられ、法医としての"覚悟"のようなものを学ばせていただいたと思っております。

法医学は考え方の学問である、といわれます。得られた所見やデータから如何なる死の病態生理に辿り着くかは、思考の方法やその及ぶ範囲によるところが多分にあると思われます。恣意的でない診断の医学的根拠をどのように示し得るかを事例ごとによく考察することが大切ですが、考察する自分自身を客観的に批判することが「考え方の進歩」に繋がるのかもしれません。法医学的考え方の進歩のためにはどのような研究を行うべきなのか、法医学に進んでから常に頭を悩ましているところですが、なかなか釈然といたしません。ある意味では、その対象が極めて広範であるために法医学ではどのような研究も無縁とはいえません。神経科学を志した姿勢のままサイエンスへの憧れをもって法医学研究を続けることも意義あることと認められるようにも思います。しかしながら、一般的原則を求めるばかりではなく、眼前の解決すべき事例の特殊性をどう科学的に考察するかが重要で、そのためには不完全な思考を辛抱強く試みていく覚悟が必要であろうと考えております。

これから藤田保健衛生大学で諸先生の学恩に報いるべく精進して参りたいと思います。今後とも、皆様からのご指導・ご鞭撻を賜りますよう、どうかよろしくお願い申し上げます。