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No.001 医学研究科長・医学部長就任にあたって

[掲載日:2009年6月15日]
大学院医学究科長 白井 智之(S45年卒)

この度は図らずも医学研究科長・医学部長を務めることになりました。この二ヶ月間の経験ですが、このポジションの重責性を痛感しています。

名古屋市立から公立大学法人名古屋市立大学へと独立行政法人化してから3年たち、今年はその4年目に入っています。設置者である名古屋市の直轄を離れて、大学のある意味において自由な裁量による運営が可能であり、教職員にとっても公務員の枠を外れて、独自の合理的な人事管理もでき、予算においても自治体予算枠に縛られずに当事者が責任をもって運用できるシステムであると多くの教職員が夢を抱いての出発ではなかったでしょうか。しかし一部の夢は実現可能であったもの、自由であることの努力と責任の大きさに、溜息も出ることもしばしばです。公的資金の計画的削減の中で、自主財源の拡充への努力は避けて通れません。なおかつ公立大学は国立大学や私立大学と異なり、文部科学省の支援の外に置かれています。基本的に公立大学は総務省の管轄になっているからです。この点は国立大学や私立大学の方々にはあまり知られていない点です。公立大学は設置団体である地方自治体がサポートすることが基本であるとされているからでしょう。しかしこれには納得しがたい部分があることも事実です。大学における教育関係は文部科学省そして病院関係は厚生労働省と所轄官庁が異なる中で、医学部は特に国民の健康と医療を担うと同時に、学部学生と大学院学生の教育の2つの大きな柱を抱えておりながら、さらに公立大学の特殊性といった複雑怪奇な仕組みのなかで、翻弄されているのが実情です。

そうした中でも教員と職員の以前にも増しての努力で、独立行政法人としての柔軟な活動を大いに利用して、一歩一歩独自の計画を実現化してきています。平成16年1月に17階建ての最先端の医療機器と設備をもつ附属病院の新病棟・中央診療棟が、平成19年5月には新外来診療棟が完成し、大学病院としての高度先進医療の推進と臨床教育の一層の充実が図られました。この春には病院の駐車場を含めた建物外の環境整備が整い、見違えるような景観をも提示出来る医学研究科に発展しました。世界に発信する医学研究と優れた医療人の育成、地域医療への貢献がますます推進されることが期待されます。

あえて申し上げるまでもなく、医学研究科・医学部を取り巻く環境の厳しさは大きな問題です。この厳しさが名古屋市立大学に限らず全国的であることがその根の深さを物語っています。

卒後研修制度の施行に端を発した大学附属病院での医師不足と都市と地方の偏在、さらに診療科での医師の偏在には本大学においても顕著な現象であり、これが名古屋市立の5病院の他多くの関連病院の診療科の維持に大きな支障をきたしているところです。大学の医局制度が主任教授を頂点とした実質的人事権をもつ悪しきシステムであり、また医局による医師派遣が労働者派遣法に抵触するなどの非難が渦巻きました。厚生労働省はこの医局の影響力を低下させることも一つの目的として2004年新研修医制度を導入しました。この結果大学の医局という求心力が失われ、卒業後多くの医師が、都市部の大病院などで研修を希望するようになりました。必然的に医局に入局する医師数は激減し、大学病院自体の人手不足を招き、ひいては医局の指導力と人事権を発揮するゆとりが無くなり、関連病院の医師不足にまで発展しました。更にその結果が在任する医師の過重勤務につながる悪循環を引き起こしてしまいました。こうした医師不足と偏在さらに診療科別医師偏在は大きな社会問題へと発展しています。この社会問題を少しでも解決しようと卒後研修制度の改革が今年行われ、来年度から新たな制度のもとで行われることになりましたが、解決からはほど遠い状態であることに変わりありません。医局の人材育成と医師派遣機能を軽視した結果ですが、医局に代わってマグネット病院(1980年代にアメリカで誕生したシステムで、マグネットのように有能な医師や看護師を引きつけ、職場が活性化している病院)が人材の育成と派遣を担うことを期待したものの、期待通りには行かない事が表面化しています。厚生労働省の役人にも医局制度のもつ人材育成機能と人材派遣機能を認めるような発言がみられるようになりました。なんと言うことでしょうか。今後も毎年研修医制度の見直しを進めるそうですが、日本の医療の崩壊が非可逆性にならないように早急な対応が求められます。

さらに卒後研修制度が引き起こしている医学・医療のもう一つの面は、基礎医学を選択する医師が激減していることです。以前より本学でも基礎医学を選択する卒業生は極めて少ない状況の中(毎年1,2名の卒業生が基礎医学を選択していた)、卒後研修制度がスタートしてからこの5年間でたった2名です。これは名市大だけのことではなさそうで、その結果、医系の基礎医学研究者の人材不足に拍車がかかってきています。良医を育成する大学の中にあって、基礎医学の重要性は改めて強調する必要は無いほど大切であり、最新の医学研究の発信にも赤信号がともります。この分野の人材不足は多分臨床医の人材不足以上に深刻な事態と認識しなければならないでしょう。

本年4月から医学部入学者定員を増員することを文部科学省が急きょ決定し、本学も従来の定員80人に10名を増員する制度に改めました。さらに愛知県が僻地対策のための地域医療への従事を約束する受験生2名を名市大が引き受けることになり、本年は92名の入学生を迎えました。入学生の増員は表面的には喜ばしいことですが、教室の拡充と整備や実習設備の対応などなど課題が生まれました。また毎年原級止め置きの学生への対応も考慮の必要です。入学生の増員に伴う増加経費の文部科学省から支援は公立大学ゆえに全くありません。残念な事です。

今年は医学研究科教授の任期制をスタートしてから7年目を迎えます。対象になっている教授は臨床系12名、基礎系7名で、外部審査委員を含めた教授任期制再任審査委員会を設置し、提出された書類の内容を基にして現在審査を始めているところです。今後は准教授、講師、助教の再任審査が行われる予定で、医学研究科の活性化につながればと期待しています。

昨年度(20年度)に医学研究科修士課程医科学専攻を設置しました。医学・生命科学に強い関心を持ち、最先端の医学・医療及び生命科学領域で活躍しようとする人を迎え、さらに修士課程での研究のさらなる発展を目指して博士課程へ進学する意欲を持つ医学研究者の育成を目指しています。昨年は16名の入学生を迎えることが出来ました。修士卒業後は就職活動という医学研究科が未経験の活動も必要になっていますが、引き続いて博士課程に入学して研究活動に意欲を燃やしてくれる学生がいることを希望しています。このことが医学研究科の研究活性化につながると思っています。

本年度からはMD-PhDコースという医学部の学生を対象にして、若い医学研究志望者に早くから研究の機会を与え、在学中に研究室で教員の指導のもと研究を行って研究成果を論文にすることを条件に、医学部6年と大学院博士課程3年で博士号を取得できるようにしました。うれしいことに6名の学生がこのコースに入ってくれました。医学研究科では成績の優秀なあるいは前向きに取り組む学生諸君にはできるだけ経済的支援を行うために独自の奨学金制度も設けていますが、ますますこのコースが定着して大きくふくらむことを願っています。

日本におけるメディカルスクール制度の導入が検討されていますが、名古屋市立大学医学研究科・医学部は日本の風土に合った無理のない医学教育を通して、優秀な医療人、医学研究者を育成していくことが使命であり、この大学で教育を、研修を受け、研究を行った若き力を結集して名古屋市を中心とした地域医療の活性化と医学の進歩に一歩でも二歩でも貢献し、さらに最新の医療の提供と医学研究成果の発信できる基地にすることが役割であると信じています。このような目標を達成するには大学の教職員のみで達成はできません。瑞友会の会員の皆様のご理解を得て、直接・間接のご支援を頂くことが必須と思っております。諸先生がたの忌憚のないご意見やご助言が私たち教職員を刺激し、励ましのことばにもなります。今後ともご指導、ご鞭撻、ご支援を切にお願い申し上げます。

最後になりますが、諸先生方のご健康・ご清栄をお祈りしますと共に、瑞友会の益々のご発展を祈念申し上げます。