精神科専門医研修コースプログラム

 

A.   診療科の概要

1.    特色

名古屋市立大学医学部精神医学教室では、まず目の前の患者様に自分たちが世界水準の精神医療を提供できること(臨床)、そして今より多くの精神科医がそれを提供出来るようになること(教育)、今の水準以上の精神医療を提供できるようになること(研究)を目標に、教室員一同が頑張っています。

私たちの教室の特徴を列挙しますと、

●平均年齢が若くて、明るくて、自由でオープンな雰囲気!

●あくまで、臨床と臨床研究が中心の教室です。後述のような専門治療を得意としています

●広く全国から名古屋市立大学以外の卒業生も(過去5年で平均すると50%強が他大学から)研修しています

●女性の教室員が非常に多くなっています

20041月から、新病棟に移り、素晴らしい環境で精神科患者様の治療に専念できます

●関連病院の数に比して、圧倒的に精神科医が不足しています

私たちは精神現象に興味のある若い医師を、熱烈大歓迎しております。患者様からは「名市大にかかれば安心・満足」、レジデントからは「名市大で研修すれば最高の精神科医になれる」、世界のジャーナルエディターからは「名市大で行われた研究ならば信頼できる、アクセプトしよう」と言ってもらえるような、そういう教室を、一緒に築き発展させて行きませんか?

 

2.    指導体制

1)

部長

古川壽亮

教授

専門: 認知行動療法,臨床疫学

2)

副部長

明智龍男

助教授

専門: サイコオンコロジー

3)

責任指導医

明智龍男

助教授

 

4)

スタッフ

英樹

講師

専門: てんかん

5)

スタッフ

奥山 徹

学内講師

専門: サイコオンコロジー

6)

スタッフ

新畑敬子

助手,医局長

 

7)

スタッフ

佐藤起代江

助手,外来医長

専門: 児童精神医学

8)

スタッフ

大槻一行

助手,病棟医長

専門: 児童精神医学

9)

スタッフ

中野有美

助手,病棟副医長

専門: 認知行動療法

10)

スタッフ

竹中吉美

助手

 

 

3.    学会認定施設・標榜施設

1)        日本老年精神医学会認定施設

 

4.    現在行っている新しい治療法

名市大精神医学教室では常に臨床が第一義です。よりよい専門治療を提供できるように、私たちはEBMの原則に則りながら、以下の分野でインターナショナルレベルの治療を提供できるようにしたいと考えています。名市大精神科の3本柱とは

Cognitive-Behavior Therapy (認知行動療法)

不安障害、気分障害、統合失調症などに対する有効性が確立されている認知行動療法は、残念ながら、日本ではまだまだ広まっていません。名市大では積極的にこれを臨床の中に取り入れてゆきます。

Psycho-oncology (精神腫瘍学)およびコンサルテーション・リエゾン精神医療

癌をはじめとした身体疾患患者に様々な心の問題が存在することが注目を集めています。名市大精神科は積極的にこの問題に取り組もうと考えています。身体各科における精神医療の重要性を他科ドクターやコメディカルに分かるような形で実践できることが重要です。

Brain Science (脳科学)

臨床教室にいる私たちは脳科学の進歩をpatient-nearなアウトカムに反映させることべく遅滞なく導入してゆかなくてはなりません。教室の伝統から考えて、それはおそらく、神経心理学や脳画像を中心としたものになってゆくでしょう。

 

具体的な専門治療チームとしては、

1)       サイコオンコロジー、コンサルテーション・リエゾン精神医学---サイコオンコロジー・チームを編成しています

2)       不安障害(パニック障害、社会不安障害、強迫性障害)---パニック障害と社会不安障害に対しては外来で認知行動療法を、強迫性障害に対しては入院または外来で行動療法を行っています

3)       気分障害---難治性の気分障害に対して修正型電気けいれん療法、認知行動分析システム精神療法(CBASP)を行っています

4)       認知症---専門外来として高次脳機能外来を設けています

5)       児童思春期精神---児童思春期外来を週に2回実施しています

6)       てんかん---てんかん外来を設けています

 

5.    特色とする医療の治療成績(概数)

1)       コンサルテーション・リエゾンでは常時3040人の他科入院症例のケアを担当しています。中でもがん患者に対して質の高いケアを提供するため、サイコオンコロジーチームを設けています。

2)       パニック障害と社会不安障害に対しては通常それぞれ2グループの治療が平行して進行しています。パニック障害の認知行動療法は2001年以後70名ほど、社会不安障害の認知行動療法は2002年以後40名ほど、強迫性障害の行動療法は2001年以後70名ほどを行っています

3)       難治性の気分障害に対して修正型電気けいれん療法を目的に常時2名ほどが入院しておられます。1999年以降修正型電気けいれん療法を受けた方は50名ほどになります

4)       高次脳機能外来では毎週30名ほどの痴呆患者を医師2名、言語療法士3名で担当しています

5)       児童思春期外来を週に2回実施しています

6)       てんかん外来では難治性てんかんを中心に2名の医師が患者様一人あたり30分ほどをかけて診察しています

 

6.    研究会、サークル 

1)       教室研究会(毎週木曜日1800〜)

2)       児童精神医学研究会(第234火曜日18:30〜)

3)       認知行動療法研究会(第13水曜日18:00〜)

4)       神経心理学研究会(第13金曜日18:45〜)

5)       サイコオンコロジー・緩和ケア研究会(第13水曜日18:30〜)

6)       臨床脳波研究会(第24金曜日18:45〜)

 

B.   研修目標

1.    コース名とGIO

1)       コース名: 名古屋市立大学病院精神科専門医研修コース

2)       GIO:  general psychiatristとして出会う患者の一人一人に最善の精神医療を提供できるように、精神医学全般の知識ならびにEBMの原則を理解し、良識的精神療法を基盤として実践的に薬物療法精神療法環境療法を統合した治療を提供でき、常にhelping professionalとして共感的態度で診療できる

2.    ユニット構成

1)       ユニット1:包括的精神症状評価ユニット

ユニットのGIO:まれな症状も含めて幅広く精神症状を問診、面接あるいは評価尺度を利用して評価することができる

SBO 1:      精神症状の特徴あるいは定義について述べることができる(知識)

SBO 2:      精神症状をきたす精神疾患や症状性あるいは脳器質性精神障害を来しうる身体疾患について列挙できる(知識)

SBO 3:      評価尺度(HAM-DMMSE、チェパッツなど)を適切に選択し、精神症状を測定することができる(技能)

SBO 4:      精神症状を聴取するためSCANテキストを利用して患者に問診あるいは面接を行うことができる。(技能)

SBO 5:      問診あるいは面接の時に、患者のプライバシーや話しやすい雰囲気を作ることに配慮できる(態度)

SBO 6:      問診あるいは面接において患者の悩みを受け止め、共感的な態度で接することができる(態度)

2.         ユニット2:基本的精神療法ユニット

SBO 7:      ユニットのGIO:すべての精神科患者との治療の基本となる精神療法を身に付け、患者に実践できる

SBO 8:      SBO:

SBO 9:      主な精神療法を列挙し、概要を説明できる(知識)

SBO 10:  支持的精神療法・認知行動療法について、詳しく説明できる(知識)

SBO 11:  支持的精神療法を実践できる(技能)

SBO 12:  認知行動療法を実践できる(技能)

SBO 13:  自分の面接態度について客観的な評価、アドバイスを受け入れる習慣を持つ(態度、習慣)

2)       ユニット3:薬物療法ユニット

ユニットのGIO:精神科疾患全般について薬物治療を理解し、実際の患者様に適用し患者家族に説明することが出来る。

SBO 1:      向精神薬の種類・効能・副作用を説明できる(知識)

SBO 2:      悪性症候群(横紋筋融解症を含む)、リチウム中毒など重篤な副作用を熟知し適切な対処ができる(知識、技能)

SBO 3:      難治性及び自殺念慮や焦燥の強いうつ病患者に対して、適切な薬物療法を選択する(知識)

SBO 4:      興奮状態にある患者に対して適切な薬物を選択し、実施できる(技能)

SBO 5:      向精神薬の有効性に関する強いエビデンスをPubMed等を用いて検索できる(技能)

SBO 6:      丁寧で分かりやすい言葉で向精神薬の副作用などに関して患者様に説明できる(技能)

SBO 7:      服薬に対する不安が強い人に対して不安を軽減するように配慮する(態度)

SBO 8:      薬物治療について書かれた論文などを読み、それに対して批判的吟味できる(態度)

SBO 9:      代表的精神疾患患者を受け持ち適切な薬物選択ができる。(知識)

3)       ユニット4ECTユニット

ユニットのGIOECTを主導的に行う上で必要な知識・技能・態度および的確な判断力を習得する。

SBO 1:      ECTの適応及び禁忌について述べることができる。(知識)

SBO 2:      ECTの有効性とリスクについて具体的に述べることができる。(知識)

SBO 3:      ECTに必要な術前・術後検査を列挙し、実行することができる。(知識)

SBO 4:      ECT前後で必要な薬物調整について述べることができる。(知識)

SBO 5:      うつ病の重症度(改善度)について客観的に評価できる。(技能)

SBO 6:      手術室でのECTの一連の流れを説明、実施できる。(技能)

SBO 7:      有効な通電ができたか否かの判断ができる。(技能)

SBO 8:      術後起こりうるせん妄、健忘を把握・評価できる。(技能)

SBO 9:      術後の酸素投与、輸液、経口摂取、安静度について指示できる。(技能)

SBO 10:  ECTについて患者・家族にわかりやすく説明できる。(態度・習慣)

SBO 11:  術後リカバリーで安心感を与える関わりができる。(態度・習慣)

SBO 12:  患者・家族への術前の挨拶、術後に家族への十分な結果報告が行える。(態度・習慣)

4)       ユニット5:精神科リハビリ・地域医療・病院連携ユニット

ユニットのGIO:精神科デイケアや社会復帰施設等の地域支援資源を理解し、精神疾患患者のリハビリテーションに利用できる。

SBO 1:      各社会復帰施設や支援施設の概念を理解する。(知識)

SBO 2:      各施設の実態と限界を知る。(技能及び知識)

SBO 3:      自分が患者として体験参加する。(技能)

SBO 4:      PSWはじめ施設職員の役割を理解する。(態度及び技能)

SBO 5:      名古屋市内の資源を理解する。(知識及び技能)

SBO 6:      適切な紹介及び各種書類作成(32条、年金、手帳、ホームヘルプサービス)ができる。(技能)

 

3.    取得できる資格

1)       精神保健指定医

2)       精神神経学会認定専門医

3)       老年精神医学会専門医

4)       総合病院精神医学会専門医

5)       臨床神経精神薬理学会専門医

 

C.   研修プログラム

1.    年次計画表

以下に示すのはあくまで一例です。個々人のご希望に応じてご相談しながら、良いgeneral psychiatristとなれる道を考えて行きます。大学病院でのレジデント研修の終了後は、総合病院精神科での研修と単科精神病院での研修を各々約2年、計4年程行ない、その間に精神保健指定医を取得するのが標準です。2カ所の初期赴任を経験するまでが専門研修の一環とお考えください。初期赴任として児童精神科病院や国立がんセンターへの赴任も可能です。

 

専門研修1年目
(
卒後3年目)

大学病院精神科でレジデント

2年目

同上

 

3年目

関連病院にて研修

 

4年目

同上

 

5年目

上記と異なる関連病院にて研修
(
このころ、精神保健指定医を取得)

 

6年目

同上

大学院1年生
(
社会人大学院生が可能)

7年目

 

2年生
(
大学病院でsubspecialtyを中心に臨床)

8年目

 

3年生
(
大学病院でsubspecialtyに専修)

9年目

 

4年生
(
大学病院でsubspecialtyに専修)

 

その後

大学or関連病院で臨床and/or研究

 

 

2.    研修場所

1)       名古屋第一赤十字病院精神科

2)       名古屋市立 東市民病院精神科

3)       名古屋市立 緑市民病院精神科¶

4)       みなと医療生活協同組合 協立総合病院精神科

5)       南医療生活協同組合総合病院 南生協病院精神科

6)       公立 陶生病院神経精神科¶

7)       豊橋市民病院精神科¶

8)       豊川市民病院精神科¶*

9)       厚生連 尾西病院精神科¶*

10)   厚生連 海南病院精神科

11)   厚生連 昭和病院精神科

12)   岐阜県立 多治見病院精神科¶*

13)   聖隷浜松病院精神科

14)   聖隷三方原病院精神科¶*

15)   三重県立小児心療センターあすなろ学園¶

16)   国立がんセンター東病院、中央病院

17)   愛精会 あいせい紀年病院*

18)   一草会 一ノ草病院*

19)   楠会 楠第一病院*

20)   共生会 南知多病院*

21)   研精会 豊田西病院*

22)   資生会 八事病院*

23)   社団法人 岐阜病院*

24)   生生会 松蔭病院*

25)   聖泉会 聖十字病院*

(¶は総合病院で精神科・神経科の病床を有する病院。*は精神保健指定医の取得のために必要な症例を担当することが可能な病院)

 

3.    週間スケジュール

 

月曜日

火曜日

水曜日

木曜日

金曜日

午前

mECT

 

 

8:30 回診

[病棟]

 

mECT

 

午後

SAD認知行動療法外来

16:00 リエゾンミーティング
[
病棟6階精神科リハビリテーション室]

気分障害予防外来

児童外来

OCD認知療法外来

児童外来

パニック障害認知行動療法外来

SAD認知行動療法外来

13:3015:30 病棟会議、新患紹介

[病棟10階第4会議室]

 

高次脳機能外来

てんかん外来

 

18:0020:00教室研究会

[研究棟10階カンファランスルーム]

18:0020:00プロトコルミーティング(原則第3)

 

18:30 児童精神医学研究会(2、第3、第4)

18:0020:00認知行動療法研究会(1、第3)

18:45〜神経心理学研究会(2、第4

18:0020:00 EBP症例検討会、月に1回画像および神経心理検討会

[研究棟10階カンファランスルーム]

 

18:30 サイコオンコロジー・緩和ケア研究会(第1、第3

 

18:15 臨床脳波研究会(2、第4)

18:0020:00 学生向け輪読会(3)

 

20:00 医局会

 

4.    院外研修

1)       上記2のリストの病院の中で、大学からの交通の便や、大学病院での専門研修との臨床の相補性を考えて、院外研修を組んで行きます。

 

5.    学会活動

教室としては臨床と臨床研究が大きな柱となりますが、これらを混同しないことが大切です。専門研修の間はあくまで良い臨床家になることを第一意義と考えて臨床に励んでください。ただし、専門研修の2年目には自ら経験した症例に則って、学会での発表を1回行っていただきます。これは研究プロパーではなく、今後生涯教育を続けて行けるための臨床訓練であると考えています。

 

6.    研修評価の方法、修了認定

指導医による観察記録が主たる評価方法です。修了の認定は、精神保健指定医の取得および精神神経学会認定専門医の取得をもって認定します。

 

D.   大学院との関係

名市大精神科の専門研修プログラムと、名市大大学院医学研究科精神・認知・行動医学での臨床研究とは、原則として互いに独立のものであると考えています。つまり、良い臨床家を志す方が日本全国から名市大精神科専門研修プログラムに集っていただき、それとはまた別に、新たに、優れた臨床研究を行いたい方が日本全国から大学院精神・認知・行動医学分野の門戸を叩いていただければよいと考えています。

しかし、名市大精神科の専門研修をされた方が、さらに研究を志される場合には、それがスムーズに組み込まれるような配慮を当然いたします。私たちの教室は臨床研究が中心ですので、ある程度の臨床経験を積まれた方にのみ大学院受験を許可しています。具体的には大学での2年間の専門研修に加え、少なくとも1カ所の初期赴任を経験された方が、大学院へ入学されることが多くなっています。

 

E.   研修修了後の進路

大学病院のチーフレジデントまたは臨床研究医またはスタッフ、関連病院(上記リストの初期赴任先以外にもいくつかの関連病院があります)の医員、大学院、または留学専門研修以外の教室の情報は、教室のホームページ http://www.ncupsychiatry.com をご参照ください。

以上