外科専門医研修コースプログラム

 

A.   外科の概要について

1.    特色

外科専門医研修コースは、日本外科学会の外科専門医取得のための臨床研修を目的とする研修コースです。現在の外科学会の専門医取得のためには、消化器、乳腺・内分泌、呼吸器、心大血管、小児外科の全ての分野での研修、経験が必要となっており、一般病院だけでの研修では取得が難しくなってきています。名古屋市立大学では、この外科学会専門医を効率的にまた短期間で取得できるように、従来までの講座の壁を取り払い、外科3講座(第一外科、第2外科、心臓血管外科)が協力して、共通のプログラムを作成しました。このような総合的な外科研修は、各領域の専門医が数多く働いている大学病院ならではの大きな利点であります。具体的には第一外科が消化器、小児外科を、第2外科が乳腺・内分泌、呼吸器を、心臓血管外科が心大血管を主に担当し、それぞれ懇切丁寧に指導を行い、初期臨床研修終了後の3年間を有効に活用して、専門医取得のための手術経験を効率的に行っていただけることと思います。

 

2.    指導体制

1)       外科専門医研修コース責任者:        藤井義敬(呼吸器外科)

 

2)       診療科の指導責任者                      

 

コース責任者

責任指導者

消化器外科

竹山廣光

沢井博純

呼吸器外科

藤井義敬

矢野智

心臓血管外科

三島 

浅野實樹

小児・移植外科

鈴木達也

近藤知史

乳腺内分泌外科

山下啓子

遠山竜也

一般外科

桑原義之

木村昌弘

 

3.    学会認定施設

1)       日本外科学会修練施設

2)       日本消化器外科学会指定修練施設

3)       日本小児外科学会認定施設

4)       日本呼吸器外科学会認定修練(基幹)施設

5)       日本胸部外科学会指定施設

6)       日本乳癌学会指定施設

7)       心臓血管外科専門医認定機構における基幹施設

8)       (日本胸部外科学会・日本心臓血管外科学会・日本血管外科学会)

 

B.   研修目標

以下に、外科において市大病院で行う1年間(卒後3年目)の研修の到達目標を説明します

 

到達目標

1.    到達目標:外科診療に必要な下記の基礎的知識を習熟し,臨床応用できる.

1)       局所解剖:手術をはじめとする外科診療上で必要な局所解剖について述べることができる.

2)       病理学:外科病理学の基礎を理解している.

3)       腫瘍学

@   発癌,転移形成およびTNM 分類について述べることができる.

A   手術,化学療法および放射線療法の適応を述べることができる.

B   抗癌剤と放射線療法の合併症について理解している.

4)       病態生理

@   周術期管理などに必要な病態生理を理解している.

A   手術侵襲の大きさと手術のリスクを判断することができる.

5)       輸液・輸血:周術期・外傷患者に対する輸液・輸血について述べることができる.

6)       血液凝固と線溶現象

@   出血傾向を鑑別できる.

A   血栓症の予防,診断および治療の方法について述べることができる.

7)       栄養・代謝学

@   病態や疾患に応じた必要熱量を計算し,適切な経腸,経静脈栄養剤の投与,管理について述べることができる.

A   外傷,手術などの侵襲に対する生体反応と代謝の変化を理解できる.

8)       感染症

@   臓器特有,あるいは疾病特有の細菌の知識を持ち,抗生物質を適切に選択することができる.

A   術後発熱の鑑別診断ができる.

B   抗生物質による有害事象(合併症)を理解できる.

C   破傷風トキソイドと破傷風免疫ヒトグロブリンの適応を述べることができる.

9)       免疫学

@   アナフィラキシーショックを理解できる.

A   GVHD の予防,診断および治療方法について述べることができる.

B   組織適合と拒絶反応について述べることができる.

10)   創傷治癒:創傷治癒の基本を述べることができる.

11)   周術期の管理:病態別の検査計画,治療計画を立てることができる.

12)   麻酔学

@   局所・浸潤麻酔の原理と局所麻酔薬の極量を述べることができる.

A   脊椎麻酔の原理を述べることができる.

B   気管内挿管による全身麻酔の原理を述べることができる.

C   硬膜外麻酔の原理を述べることができる.

13)   集中治療

@   集中治療について述べることができる.

A   レスピレータの基本的な管理について述べることができる.

B   DIC MOF を理解できる.

14)   救命・救急医療

@   蘇生術について述べることができる.

A   ショックを理解できる.

B   重度外傷を理解できる.

C   重度熱傷を理解できる.

 

2.    到達目標:外科診療に必要な検査・処置・麻酔手技に習熟し,それらの臨床応用ができる.

1)       下記の検査手技ができる.

@   超音波診断:自身で実施し,病態を診断できる.

A   エックス線単純撮影,CTMRI:適応を決定し,読影することができる.

B   上・下部消化管造影,血管造影等:適応を決定し,読影することができる.

C   内視鏡検査:上・下部消化管内視鏡検査,気管支内視鏡検査,術中胆道鏡検査,ERCP 等の必要性を判断することができる.

D   心臓カテーテルおよびシネアンギオグラフィー:必要性を判断することができる.

E   食道内圧検査,食道24時間pH モニター検査,直腸内圧検査,デフェコグラムなどの消化管機能検査:適応を決定し,結果を解釈できる.

F   呼吸機能検査の適応を決定し,結果を解釈できる.

2)       周術期管理ができる.

@   術後疼痛管理の重要性を理解し,これを行うことができる.

A   周術期の補正輸液と維持療法を行うことができる.

B   輸血量を決定し,成分輸血を指示できる.

C   出血傾向に対処できる.

D   血栓症の治療について述べることができる.

E   経腸栄養の投与と管理ができる.

F   抗菌性抗生物質の適正な使用ができる.

G   抗菌性抗生物質の有害事象に対処できる.

H   デブリードマン,切開およびドレナージを適切にできる.

3)       次の麻酔手技を安全に行うことができる.

@   局所・浸潤麻酔

A   脊椎麻酔

B   硬膜外麻酔

C   気管内挿管による全身麻酔

4)       外傷の診断・治療ができる.

@   すべての専門領域の外傷の初期治療ができる.

A   多発外傷における治療の優先度を判断し,トリアージを行うことができる.

B   緊急手術の適応を判断し,それに対処することができる.

5)       以下の手技を含む外科的クリティカルケアができる.

@   心肺蘇生法―ALS(気管内挿管,直流除細動を含む)

A   動脈穿刺

B   中心静脈カテーテルおよびSwan-Ganz カテーテルの挿入とそれによる循環管理

C   レスピレータによる呼吸管理

D   熱傷初期輸液療法

E   気管切開,輪状甲状軟骨切開

F   心嚢穿刺

G   胸腔ドレナージ

H   ショックの診断と原因別治療(輸液,輸血,成分輸血,薬物療法を含む)

I   DICSIRSCARSMOF の診断と治療

J   抗癌剤と放射線療法の有害事象に対処することができる.

6)       外科系サブスペシャルティの分野の初期治療ができ,かつ,専門医への転送の必要性を判断することができる.

 

3.    到達目標:一定レベルの手術を適切に実施できる能力を修得し,その臨床応用ができる.

一般外科に包含される下記領域の手術を実施することができる.括弧内の数字は術者または助手として経験する各領域の手術手技の最低症例数を示す.

@   消化管および腹部内臓(50例)

A   乳腺(10例)

B   呼吸器(10例)

C   心臓・大血管(10例)

D   末梢血管(頭蓋内血管を除く)(10例)

E   頭頸部・体表・内分泌外科(皮膚,軟部組織,顔面,唾液腺,甲状腺,上皮小体,性腺,副腎など)(10例)

F   小児外科(10例)

G   各臓器の外傷(多発外傷を含む)(10例)

H   鏡視下手術(腹腔鏡・胸腔鏡を含む;上記のうち,各分野における各種手術)(10例)

1)       修練期間中に術者または助手として,手術手技を350例以上を経験する.

2)       前記の領域別分野の最低症例数を,術者または助手として経験する.

3)       前記の領域別分野にかかわらず,術者としての経験が120例以上であること.

 

4.    到達目標:外科診療を行う上で,医の倫理に基づいた適切な態度と習慣を身に付ける.

1)       指導医とともにon the job training に参加することにより,協調による外科グループ診療を行うことができる.

2)       コメディカルスタッフと協調・協力してチーム医療を実践することができる.

3)       外科診療における適切なインフォームド・コンセントを得ることができる.

4)       ターミナルケアを適切に行うことができる.

5)       研修医や学生などに,外科診療の指導をすることができる.

6)       確実な知識と不確実なものを明確に識別し,知識が不確実なときや判断に迷うときには,指導医や文献などの教育資源を活用することができる.

 

5.    到達目標:外科学の進歩に合わせた生涯学習を行う方略の基本を習得し実行できる

1)       カンファレンス,その他の学術集会に出席し,積極的に討論に参加することができる.

2)       専門の学術出版物や研究発表に接し,批判的吟味をすることができる.

3)       学術集会や学術出版物に,症例報告や臨床研究の結果を発表することができる.

4)       学術研究の目的で,または症例の直面している問題解決のため,資料の収集や文献検索を独力で行うことができる.

 

C.   研修プログラム

1.    年次計画

1)       原則的には3年次と4年次の2年間は市大病院において外科の中のローテート研修を行い,5年次は関連病院での研修を予定しています

2)       2年間の市大病院での研修は、基本的には消化器,一般外科を12ヶ月、呼吸器外科を3ヶ月、心臓血管外科を3ヶ月、乳腺内分泌外科を3ヶ月、小児・移植外科を3ヶ月の計24ヶ月であります。ローテートの順番については研修を受ける人数により決定します。また希望に応じて研修計画を調整することも可能です。

 

2.    研修場所

以下に5年目に研修を行う外科の主な関連病院を挙げます。

東市民病院、緑市民病院、市立城北病院、市立城西病院、守山市民病院、NTT西日本東海病院、愛知県がんセンター、刈谷総合病院、豊川市民病院、トヨタ記念病院、名古屋共立病院、聖隷三方原病院、掛川市立総合病院、多治見市民病院、松波総合病院、成田記念病院、知多厚生病院、菰野厚生病院、厚生連尾西病院、いなべ総合病院、などでの研修を予定しています。

 

3.    週間スケジュール

1)       ローテート先の診療科のスケジュールに従っていただきます

2)       各診療科とも週2回以上の症例検討会,定期的な抄読会、研究報告会を行っており、臨床及び基礎領域の知識の習得が得られます。

3)       日常診療については、上位医師とマンツーマンで術前、術中、術後の管理、手術などを学んでいただきます。

 

4.    アルバイト先

アルバイトに関しては各自の能力と希望に応じて紹介いたします。

 

5.    日直・当直計画

当直業務については、大学での当直を月に2から3回程度を予定しています。

 

D.   学会活動と専門医研修

1)       学会活動については積極的に指導をしています。地方会での発表を年に3−4回

2)       全国学会への参加が2−3回、また論文作成についてもきちんと指導をしており、年間1−2本の論文作成を課題として考えています。

 

E.   取得が可能な専門医の資格:

日本外科学会専門医 初期研修終了後6ヶ月以内に登録が必要、卒後5年目で筆記試験、6年目で面接試験を受験することができ、最短で卒後6年目での外科学会専門医の資格を得ることが可能です。

 

F.   研修終了後の進路について

研修終了時に本人と診療科において今後の進路について相談、希望に応じた進路を決定します。