制御形態学

1. Sakuma, E., Herbert, DC. & Soji, T., Leptin and ciliary neurotrophic factor enhance the formation of gap junctions between folliculo-stellate cells in castrated male rats. Arch Histol Cytol, 65: 269-278, 2002


分子形態学

1. Ugawa, S., Ueda, T., Ishida, Y., Nishigaki, M., Shibata, Y. and Shimada, S., Related Articles, Links Amiloride-blockable acid-sensing ion channels are leading acid sensors expressed in human nociceptors. J Clin Invest., 110: 1185-90, 2002

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代謝細胞生化学1

現在進行中の研究プロジェクト
1)血漿HDL代謝の制御
 HDLは生体内で合成されたコレステロールを胆汁酸として利用する為に各細胞から肝臓への運搬において中心的な役割を果たしている。HDL新生の出発点は肝並びに肝以外の細胞表面に存在するATP-binding cassette A1 (ABCA1)蛋白質とアポリポタンパク質AIとの相互作用である。この機能の詳細を、[1]ABCA1のノックアウトマウスや[2]HDL上でコレステロールをアシルエステル化する酵素、lecithin:cholesterol acyltransferase (LCAT)のノックアウトマウス並びに[3]HDL新生を阻害するprobucol を投与したマウスを用いて研究をおこなっている。
2)脳内コレステロール代謝制御におけるアポEの役割
 脳関門が存在するため脳内では血漿とは異なるコレステロールの調節機構が存在する。脳内ではアポEが主なアポリポ蛋白質で、脳内のコレステロールの恒常性に大きく貢献している。このノックアウトマウスを用いて脳内コレステロール代謝について 研究をおこなっている。
3)ABC-A1、アポE、カベオリン1と細胞コレステロール搬出機構
 ウサギを用いてペプチド抗体を作成し、細胞コレステロール搬出におけるABCA1アポE、カベオリン1蛋白質の役割を解析している。
4) CETP 欠損による高 HDL 血症が東アジアに特異的に多い理由を検討するため、こうした病態が日本中血吸虫症による肝病変の進展に抵抗性があるとの仮説を証明しようとしている。具体的には、肝硬変の直接の原因となる肝臓に滞留する虫卵のミラシ ジウムへの成熟による肉芽種の形成が HDL に依存し、CETP 欠損により生じる大粒子HDL ではこれが起こりにくいことを、ヒト血清を用いた in vitro の実験と CETP トランスジェニックマウスによる in vivo から証明した。

1. Arakawa, R. and Yokoyama, S., Helical apolipoproteins stabilize ATP-binding cassette transporter A1 by protecting it from thiol protease-mediated degradation. J Biol Chem., 277: 22426-9, 2002

2. Wu CA, Tsujita M, Okumura-Noji K, Usui S, Kakuuchi H, Okazaki M, Yokoyama S. Cholesteryl ester transfer protein expressed in lecithin cholesterol acyltransferase-deficient mice. Arterioscler Thromb Vasc Biol., 22: 1347-53, 2002

3. Yamauchi Y, Abe-Dohmae S, Yokoyama S. Differential regulation of apolipoprotein A-I/ATP binding cassette transporter A1-mediated cholesterol and phospholipid release. Biochim Biophys Acta., 1585: 1-10, 2002


脳神経生理学

 神経細胞死及びグリア細胞死のメカニズムを、パーキンソン病モデル動物、虚血モデル動物、ハンチントン病モデル動物を用いてin vivo のレベルから、また培養細胞を用いてin vitroのレベルから解析した。これらのモデル動物の脳内に神経幹細胞及び神経細胞を移植し、移植細胞の発達・成長と機能の再建について研究を行った。また、暑熱耐性ラットを開発・系統維持し、その生理機能特性の解析を行うとともに、日内リズムの発達とその視交叉上核ニューロンへのcoding機構を解析した。

1. Ishibashi, T., Dupree, JL., Ikenaka, K., Hirahara, Y., Honke, K., Peles, E., Popko, B., Suzuki, K., Nishino, H. and Baba, H. A myelin galactolipid, sulfatide, is essential for maintenance of ion channels on myelinated axon but not essential for initial cluster formation. J. Neurosci., 22: 6507-6514, 2002

2. Kondoh, T., Uneyama, H., Nishino, H. and Torii, K. Melatonin reduces cerebral edema formation caused by transient forebrain ischemia in rats. Life Science, 9132: 1-8, 2002

3. Mogami, M., Hida, H., Hayashi, Y., Kohri, K., Jung, C-G. and Nishino, H. Estrogen blocks 3-nitropropionic acid-induced [Ca2+]i increase and cell damage in cultured rat cerebral endothelial cells. Brain Res., 956: 116-125, 2002

4. Aihara, N., Imamura, N., Kimura, T., Yamada, K., Hida, H., Nishino, H., Ueda, T. and Shimada, S. Intracerebral hemorrhage upregulates Na+/myo-inositol cotransporter in the rat brain. Neurosci. Lett., 327: 21-24, 2002

5. Baba, H., Hida, H., Kodama, Y., Jung, C-G., Wu, C-Z., Nanmoku, K., Ikenaka, K. and Nishino, H. Efficient gene transfer to neural stem cells by high titer retroviral vectors. Catecholamine Research : From Molecular Insights to Clinical Medicine, Kluwer Academic/Plenum Publishers, 297-300, 2002

6. 相原徳孝、山田和雄、西野仁雄:脳虚血・梗塞に対する神経移植研究の現状と展望、日本臨床60: 411-418, 2002

7. 飛田秀樹、児玉裕司、鄭 且均、馬場広子、西野仁雄:中脳神経幹細胞のParkinson病モデル動物への応用、Clinical Neuroscience, 20: 84-87, 2002

8. 飛田秀樹、鄭 且均、西野仁雄:特集 神経疾患と再生医療:Parkinson病モデル動物への細胞治療、最新医学57: 72-78, 2002


実験病態病理学

 病理学第一講座は主に発がん過程の解析研究を動物実験モデルを用いて行っている。対象として前立腺癌・膀胱癌・肝癌・肺癌を中心に化学発がん物質による実験モデルや遺伝子操作動物を用いて、多種多様な因子の発がん修飾作用の検討および多段階発がんメカニズムの追究を目指している。この研究を通して、ヒトがんの予防と治療に少しでも役立つ成果を得ることを期待している。また環境中の化学物質などのヒトへの健康に対する影響を評価するリスクアセスメントにも力を入れている。
 前立腺癌に関する研究では独自に樹立した2種類のラット化学発がん前立腺癌モデルとProbasin-SV40Tag導入ラット、さらにヒトの手術材料を用い、発癌のメカニズムとアンドロゲン非依存性となる機構を分子生物学的検討から形態学的検索まで多岐にわたって解析している。 さらに、p27 knockoutマウス、Poly (ADP-ribose)knockoutマウス、XPマウスをはじめとする種々のトランスジェニック動物を用いて、発がん過程におけるそれぞれの遺伝子の関与の追究や、種々の化合物による修飾作用について検討している。
 転移モデルの開発ならびに転移の制御では、我々が開発した肝癌の自然肺転移モデルや我々が確立した前立腺癌・肝癌細胞株および種々のヒトを含めた悪性腫瘍細胞株を用いて、種々の転移抑制物質の同定や、転移関連遺伝子の同定をすすめている。
 発がん物質自体や他の物質との相互作用(複合作用)、および化学物質の発がん性などリスクアセスメントについては、現在世界で広く認知されている中期肝発癌性試験法をはじめとする種々の動物モデルを用いて、加熱食品に含まれる発がん物質であるヘテロサイクリックアミンの発癌性を強力に抑制する抗酸化剤を発見し、その抑制機構を代謝活性化や活性酸素の観点から追究している。また、携帯電話から発生する電磁波は肝がん・皮膚がんに対して影響がないことを発表し、さらにbisphenol A, nonylphenolをはじめとする内分泌撹乱化学物質の生体に対する影響といった、社会的に問題となっている因子の生体に対する影響も様々な面から検討している。

1. Futakuchi, M., Hirose, M., Imaida, K., Takahashi, S., Ogawa, K., Asamoto, M., Miki, T., and Shirai, T. Chemoprevention of 2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo-[4,5-b]pyridine-induced colon carcinogenesis by 1-O-hexyl-2,3,5-trimethylhydroquinone after initiation with 1,2-dimethylhydrazine in F344 rats. Carcinogenesis., 23: 283-287, 2002

2. Asamoto, M., Hokaiwado, N., Cho, Y.-M., and Shirai, T. Effects of genetic background on prostate and taste bud carcinogenesis due to SV40 T antigen expression under probasin gene promoter control. Carcinogenesis., 23: 463-467, 2002

3. Futakuchi, M., Cheng, J. L., Hirose, M., Kimoto, N., Cho, Y.-M., Iwata, T., Kasai, M., Tokudome, S., and Shirai, T. Inhibition of conjugated fatty acids derived from safflower or perilla oil of induction and development of mammary tumors in rats induced by 2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine (PhIP). Cancer Lett., 178: 131-139, 2002

4. Takahashi, S., Suzuki, S., Inaguma, S., Cho, Y.-M., Ikeda, Y., Hayashi, N., Inoue, T., Sugimura, Y., Nishiyama, N., Fujita, T., Ushijima, T., and Shirai, T. Down-regulation of Lsm1 is involved in human prostate cancer progression. British J. Cancer., 86: 940-946, 2002

5. Takahashi, S., Inaguma, S., Cho, Y.-M., Imaida, K., Wang, J., Fujiwara, O., and Shirai, T. Lack of mutation induction with exposure to 1.5 GHz electromagnetic near fields used for cellular phones in brains of big bluemice. Cancer Res., 62: 1956-1960, 2002

6. Takahashi, S., Inaguma, S., Sakakibara, M., Cho, Y.-M., Suzuki, S., Ikeda, Y., Cui, L., and Shirai, T. DNA methylation in the androgen receptor gene promotor region in rat prostate cancer. The Prostates., 52: 82-88, 2002

7. Asamoto, M., Hokaiwado, N., Cho, Y.-M., and Shirai, T. A transgenic rat model of prostate carcinogenesis. J. Toxicol. Pathol., 15: 191-196, 2002

8. Shirai, T., Kato, K., Futakuchi, M., Takahashi, S., Suzuki, S., Imaida, K., and Asamoto, M. Organ differences in the enhancing potential of 2-amino-1-methy-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine on carcinogenicity in the prostate, colon and pancreas. Mutation Res., 506-507: 129-136, 2002

9. Suzuki, S., Takahashi, S., Asamoto, M., Inaguma, S., Ogiso, T., Hirose, M., and Shirai, T. Lack of modification of 2-amino-3, 8-dimethylimidazo[4,5-f]quinoxaline (MeIQx)-induced hepatocarcinogenesis in rats by fenbendazole - a CYP1A2 inducer. Cancer Lett., 185: 39-45, 2002

10. Shirai, T., Asamoto, A., Takahashi, S., and Imaida, K. Diet and prostate cancer. Toxicology., 181: 89-94, 2002

11. 二口充、彦坂敦也、白井智之:造骨性変化を伴うラット前立腺癌骨浸潤モデルを用いた抗Parathyroid related peptide (PTHrP)中和抗体の抑制作用の検討。 名古屋市厚生院紀要28: 29-36, 2002


宿主・寄生体関係学

腸管寄生線虫の寄生適応と宿主との相互作用

1.はじめに

ヴェネズエラ糞線虫という、ネズミ類の腸管に寄生する聞き慣れない名前の寄生線虫がいる。名古屋市内を走り回っているドブネズミにもふつうにみられるありふれた虫だが、ほとんどの人間の生活とはあまり関係がない。ところがこの虫は腸管免疫のモデルとして近年研究が進みつつあり、愛好者の数も増加中である。
本稿では、この虫が宿主腸管粘膜へどのように寄生しているのか、どんな仕掛けで宿主によって排除されるのかを、名古屋市大で行われた実験を中心にして述べ、今後のさらなる展開について考えてみたい。

2.ヴェネズエラ糞線虫の排除

ヴェネズエラ糞線虫をマウスに感染させると、幼虫は皮下結合織から肺を通って腸管に下りてきて、小腸上部で寄生を開始する。ところが、感染後10日から2週間くらいでものの見事に排除されてしまう。排除とは文字通り強制的に立ち退かされることで、虫は腸管からいなくなってしまうのである。免疫系がうごかないヌードマウスでは排除は起こらないので、虫の排除が免疫系のはたらきであることは間違いないが、虫がそのために深刻なダメージを受けているわけではない。
また虫の寿命ということでもない。排除されつつある虫は十分元気で、それにもかかわらず宿主粘膜に寄生し続けることができなくなるのである。
これは次のような実験で証明される。まず排除の時期の成虫を集めてきて、ナイーブな(免疫学的に感作されていない)マウスの腸管に直接入れてやると、排除の時期の虫も、まだ排除が始まっていない時期の虫と同様にマウスの腸管に定着できる。次に成虫になってすぐの、まだ排除が始まっていない時期の虫を今度は排除の時期のマウス腸管に入れてやると、まったく粘膜に定着することはできない。つまり排除という現象は、感染経過によって虫の性質が変わるのではなく、宿主の粘膜がヴェネズエラ糞線虫の寄生に適さなくなることで引き起こされるわけである。

3. 粘膜肥満細胞

それでは感染経過とともに宿主の腸管粘膜には何が起こるのであろうか。組織学的に最も目立つ変化は粘膜肥満細胞の出現である。肥満細胞といえばアレルギーの諸悪の根元で、細胞内にヒスタミンやヘパリンを持っていて結合織に存在する大きな細胞、というのがふつうに思いつくものであるが、虫の感染で腸管粘膜に出てくる肥満細胞はヒスタミンはあまり持っておらず、ヘパリンの代わりにコンドロイチン硫酸を顆粒内に持っている。アレルギーで問題になるふつうの肥満細胞との一番の違いは、正常時にはまったくといってよいほど粘膜にいないのに、感染が起こるとT細胞依存性に増加することである。
マウスやラットで粘膜肥満細胞と糞線虫の排除の関係はいくつかの系で示されてきた。粘膜肥満細胞の誘導には幹細胞因子(SCF)とともにT細胞由来のサイトカインであるインターロイキン(IL)-3やIL-9が必要であるが、幹細胞因子レセプターに異常のあるW/WvマウスやIL-3ノックアウトマウスでは粘膜肥満細胞の反応が弱く、虫の排除が遅れる。W/WvマウスにIL-3ノックアウト遺伝子を導入すると粘膜肥満細胞の応答はさらに悪くなり、虫はなかなか排除されなくなる。これとは逆に、本来虫を排除できないヌードマウスにIL-3を投与して粘膜肥満細胞を誘導しておくと、ヌードマウスは虫を排除するようになる。

4. 粘膜肥満細胞による排除の仕組み

腸管粘膜に肥満細胞がでてくるとヴェネズエラ糞線虫の成虫は寄生できなくなるのだが、それはいったいなぜなのだろうか。上に述べたように虫自体は元気なのであるから、たとえば肥満細胞由来の生理活性物質によって致命的なダメージを受けるというようなことではない。
この現象を理解する鍵は、ヴェネズエラ糞線虫の成虫は接着性の粘液様物質を口から分泌しているという発見によって得られた。あるとき虫をリン酸緩衝液中で一晩培養して次の日に顕微鏡で覗いてみたところ、虫はプラスティックフラスコの底に口から分泌した接着物質でへばりつき、海藻のようにゆらゆらゆれていたのである(-Adhesion)。いくらかの紆余曲折の後に考えたことは、成虫はこの接着物質でまず腸管粘膜の上皮表面に結合し、それから粘膜にもぐるのではないかということである。
感染マウスの腸管粘膜を組織学的に観察すると、ヴェネズエラ糞線虫の成虫は粘膜上皮にトンネルを造って生活しているのが分かる(-Histology)。そして成虫を小腸に外科的に移入すると、すぐに粘膜にもぐり込み、上皮層内にトンネルを造って定着する。排除の時期の粘膜に虫が定着できないのは、粘膜にたくさんいる肥満細胞が虫の粘膜への接着ともぐり込みを妨害するからではないだろうか。
この考え方が正しいとすると、粘膜肥満細胞がどんな仕組みで虫の上皮表面への接着ないしもぐり込みを阻害するのかが問題となる。実は虫が分泌する接着物質は腸管上皮細胞を含む宿主細胞に強力に結合する活性を持っているのだが、同時にヘパリンなどの硫酸化多糖類にも強く結合する。そのため、硫酸化多糖類が存在すると、接着物質は上皮細胞との結合を邪魔されてしまう。粘膜肥満細胞はヘパリンこそ持っていないが、顆粒内にコンドロイチン硫酸という硫酸化多糖を持っていて顆粒内容物を放出している。おそらく排除の時期にマウス腸管で起こっていることは、粘膜肥満細胞が放出するコンドロイチン硫酸が虫の接着物質に結合して虫は上皮細胞に接着できなくなり、引き続いて起こるはずの上皮へのもぐり込みもできなくなってしまうのであろう。実際にヴェネズエラ糞線虫の成虫をいろいろな種類の多糖類とともにマウス腸管に移入してやると、コンドロイチン硫酸が虫の腸管粘膜への定着を阻害することが確かめられた。

5. 小腸上皮での生活

虫が腸上皮に結合するのが最初に定着するときだけならば、その後いくら表面への接着ができなくなっても、上皮内にすでに入ってしまった虫には関係ないはずである。走査電子顕微鏡で感染粘膜を観察してみると、しばしば虫がいったん粘膜から脱出し再進入している像がとらえられる(-SEM)。どうやらヴェネズエラ糞線虫の成虫は、腸管粘膜を休みなく前進し続けていて、次々に絨毛から絨毛へ渡り歩いているらしい。粘膜肥満細胞が出現すると新しい絨毛に入ろうとしたときに上皮へ接着し損なって虫体は排除されていくと考えられる。虫は「滑る」のである。腸管の中では、マクロファージやリンパ球などはすぐに死んでしまって虫を攻撃するなど問題外である。抗体も虫と上皮細胞の接着を阻止するには力不足である。 肥満細胞による排除は、絨毛から絨毛へ渡り歩くという虫の性質を利用して虫を腸管から追い出す、見事な仕組みといってよいであろう。
ところで、接着物質に対する特異抗体を作って感染粘膜を染めてみると、トンネルの壁が染まるのが観察される(-Immunostain)。また上皮細胞の表面にも接着物質の塊がみえる。虫は、上皮にもぐる時だけ接着物質を出すのではなく、腸管に寄生している間は接着物質を出し続けているようである。ヴェネズエラ糞線虫の成虫がやることといえば、卵を産むこと、接着物質を出すこと、そして粘膜をもぐり続けることの三つといってよいようだ。
虫の内部で抗接着物質抗体で染まる場所は食道壁で、ここが顆粒状に染まる(-Esophagus)。これはいわゆる食道腺と呼ばれるところで、線虫の場合、食道腺はまとまった器官を形成しているわけではなく、筋組織の中に腺細胞が散在している。食道腺というのはおもしろい器官で、自由生活性の線虫では消化性酵素などを分泌することが知られているが、寄生線虫の場合、植物寄生性のものでは植物組織を分解するセルラーゼ、昆虫類を中間宿主にするフィラリア類では昆虫のキチンを分解するキチナーゼを産生している。ヴェネズエラ糞線虫では粘膜寄生にとって必須と思われる接着物質をつくっているわけで、食道腺のはたらきは線虫の環境適応にとってとても重要な位置を占めていることが伺える。

6. ヴェネズエラ糞線虫の組織特異性

生体内で硫酸化多糖類があるところといえば、肥満細胞のほかには軟骨のマトリクスと大腸粘膜の杯細胞である。軟骨はともかく、ヴェネズエラ糞線虫は小腸上部に寄生して大腸には決してみられないが、これは大腸粘液の硫酸化と何か関係 がないだろうか。
ふつうに感染したときは、ヴェネズエラ糞線虫は小腸上部にしかいないが、外科的に移入すると、成虫は小腸ならば上部であろうと下部であろうとどこにでも定着できる。ところが、大腸にはまったく定着できない。そこで虫体移入を大腸粘液の硫酸化の悪い突然変異マウス(短肢症マウス)でおこなってみると、正常マウスに比べて多くの成虫が大腸に定着できた。このことは大腸の硫酸化粘液もヴェネズエラ糞線虫にとっては阻害的に作用することを示し、寄生虫の臓器特異性に糖鎖が重要な役割を果たす場合のあることを教えている。寄生虫の排除と臓器特異性という一見何の関係もないような現象が硫酸化多糖類というキーワードで統一的に理解できるわけで、生き物と生き物の相互作用は奥が深いと感心させられる。
ところで臓器特異性とともに寄生虫には宿主特異性というものもある。これはたとえばヒトの寄生虫は人には感染できるがネズミには寄生できないというような現象をいう。ヴェネズエラ糞線虫はネズミ類の寄生虫で、これまでのところマウス、ラット、ハムスター、スナネズミには感染することが知られている。当然のことながら遠く離れたトリなどには感染できないわけだが、驚いたことにヴェネズエラ糞線虫の成虫をヒヨコの腸管に移入してやると、ちゃんと上皮内に侵入することが確かめられた。ヒヨコの腸管からは24時間以内に排除されてしまうのであるが、これは粘膜内へのヘテロフィルという好酸球性の顆粒を持った細胞の浸潤と相関している。少なくともヴェネズエラ糞線虫の成虫に関しては、宿主特異性は虫の側の要因というよりも宿主の生体防御能によって決まっているといってよいようである。

7. これからの課題

これまでに分かってきたことをまとめると、マウスにおけるヴェネズエラ糞線虫の感染では、虫が腸管粘膜に達してしばらくすると腸管粘膜に粘膜肥満細胞が出現し、そのコンドロイチン硫酸のために虫が滑って落ちるということである。大腸でも滑ってしまう。では、これから先の研究はどのような方向に展開するであろうか。
宿主の側では、肥満細胞が出てくるのに免疫系が活性化されるのはいいとして、虫のどのような抗原がどの細胞を刺激して、どういう免疫ネットワークがはたらいて最終的に粘膜肥満細胞が局所に出るのか、ということは一切分かっていない。おそらく虫由来の何らかの抗原が樹状細胞に取り込まれ、T細胞が活性化されてIL-3やIL-9を出すのだろうということは想像できるが、実際には何も証明されてはいない。ここら辺のことをきちんと調べれば、腸管粘膜で起きるいろいろな免疫がらみの現象について、われわれはもっと多くのことを知ることができるようになるのではないだろうか。
虫の側での研究といえば、接着物質の生化学の解明であろう。これまでは漠然と接着物質と呼び、硫酸化多糖類に結合するというようなおおざっぱな話ばかりであったが、どのようなコアタンパクにどんな糖鎖が結合したものでできているのか、ちゃんと明らかにする必要がある。接着物質の詳細な研究は食道腺の機能の解明につながり、それは線虫という生物の生活環境への適応を理解するのに大きな力になるはずである。

8.おわりに

線虫や吸虫、条虫などの多細胞性の寄生虫(これらをまとめて蠕虫と呼ぶ)は、生きている動物の中でしか生活することができない。つまりこれらの生き物で実験的な研究をしようとすると、つねに宿主の動物を飼い続ける必要があることになり、それはつまり動物実験施設のないところでは蠕虫専門の寄生虫学者は実験ができないことを意味する。動物愛護の観点からすると、われわれは実に罪深い存在である。
それではなぜ虫を研究するのであろうか。それは、虫がわれわれの体について知っていることを知りたいから、あるいはわれわれの体をどう認識しているかを知りたいからである。たとえばヴェネズエラ糞線虫は経皮感染したあとで幼虫は循環系を通って肺にいたり、肺で血管から気道に移って喉頭を経て咽頭に行き、消化管を下って小腸上部に達して成虫になる。いったいどうやって迷うことなく目的地に達することができるのかまったく分かっていないが、それぞれの場所でなんらかのシグナルをとらえているのは確かだろう。成虫にしても上皮細胞を破壊することなく上手に細胞接着をはずしてトンネルを造っていて、しかも基底膜を超えて粘膜固有層へ乱入することもない。これは固有宿主のネズミの腸管だけではなくトリの腸管でも同様である。
寄生虫が宿主の体の中で生活している仕組みをもっとくわしく知ることができれば、われわれは、自分たちについてもっと深く知ることができるようになるはずである。

参考文献

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2. Maruyama, H., Hirabayashi, Y., el-Malky, M., Okamura, S., Aoki, M., Itagaki, T., Nakamura-Uchiyama, F., Nawa, Y., Shimada, S. & Ohta, N., Strongyloides venezuelensis: longitudinal distribution of adult worms in the host intestine is influenced by mucosal sulfated carbohydrates. Exp Parasitol., 100:179-185, 2002

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感染防御・制御学


細菌学講座では、マウス、ラットを用いて組換えコレラトキシンBサブユニットをアジュバントとした粘膜ワクチンの開発を目指し研究を行っている。

1. Miyashita, M., Joh, T., Watanabe, K., Todoroki, I., Seno, K., Ohara, H., Nomura, T., Miyata, M., Kasugai, K., Tochikubo, K. & Itou,M., Immune responses in mice to intranasal and intracutaneous administration of a DNA vaccine encoding Helicobacter pylori - catalase. Vaccine, 20: 2336-2342, 2002

2. Maeyama, J ., Isaka, M., Yasuda, Y., Matano, K., Taniguchi, T., Morokuma, K., Ohkuma, K., Tochikubo, K. & Goto, N., Effects of recombinant cholera toxin B subuint on IL-1 beta production by macrophages in vitro. Microbiol. Immunol., 46: 593-599, 2002


生体防御学

研究概説

生体防御機構の解明を中心に、生体反応を分子レベルで理解するための理論構築と、その実証を目指して研究を展開している。
1)HIV感染に対する免疫学的治療法の開発研究。
2)生体防御における種特異的補体制御膜因子に関する研究。
3)補体反応を活用して腫瘍免疫応答を促進する方法論に関する研究。
4)アンチセンスペプチドホモロジーボックス理論と、それを用いた蛋白分子の機能制御法の開発に関する研究。
5)炎症反応、アレルギーやショックを制御する塩基性カルボキシペプチダーゼに関する研究。
6)中枢神経系における補体反応系の役割に関する研究。

研究業績

1. Caragine, T. A., Okada, N., Frey, A. B., and Tomlinson, S., A tumor-expressed inhibitor of the early but not late complement lytis pathway enhances tumor growth in a rat model of human breast cancer. Cancer Res., 62: 1110-1115, 2002

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3. Campbell, W., Lazoura, E., Okada, N., and Okada, H., Inactivation of C3a and C5a octapeptides by carboxypeptidase R and carboxypeptidase N. Microbiol. Immunol., 46: 131-134, 2002

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5. Yamamoto, T., Omoto, S., Mizoguchi, M., Mizukami, H., Okuyama, H., Okada, N., Saksena, N., Brisibe, E. A., Otake, K., and Fujii, Y. R., Double-stranded nef RNA interferes with human immunodeficiency virus type 1 replication. Microbiol. Immunol., 46: 809-817, 2002

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8. Ikeguchi, H., Maruyama, S., Morita, Y., Fujita, Y., Kato, T., Natori, Y., Akatsu, H., Campbell, W., Okada, N., Okada, H., Yuzawa, Y., and Matsuo, S., Effects of human soluble thrombomodulin on experimental glomerulonephritis. Kidney Int., 61: 490-501, 2002

9. Komura, H., Shimomura, Y., Yumoto, M., Katsuya, H., Okada, N., and Okada, H., Heat stability of carboxypeptitase R of experimental animals. Microbiol. Immunol., 46: 217-223, 2002

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11. Lazoura, E., Campbell, W., Yamaguchi, Y., Kato, K., Okada, N., and Okada, H., Rational structure-based design of a novel carboxypeptidase R inhibitor. Chemistry & Biology, 9: 1129-1139, 2002

12. Akatsu, H., Abe, M., Miwa, T., Tateyama, H., Maeda, S., Okada, N., Kojima, K., and Okada, H., Distribution of rat C5a anaphylatoxin receptor. Microbiol. Immunol., 46: 863-874, 2002

13. Sogabe, H., Quig, RJ., Okada, N., Miyata, T., Inagi, R., Kurokawa, K., Fujita, T., and Nangaku, M., Gene therapy for renal injury model rat using an adenovirus vector encoding the soluble rat Crry gene. Clin. Exp. Nephrol., 6: 216-223, 2002

14. Maeda, S., Takeyama, H., Okada, H., and Manabe, T., Muc1 muchin directly binds to tissue culture plates and is detectable with antibody to Muc1 core protein. Nagoya Medical Journal, 45:159-170, 2002

15. Akatsu, H., Takahashi, M., Matsukawa, N., Ishikawa, Y., Kondo, N., Sato, T., Nakazawa, H., Yamada, T., Okada, H., Yamamoto, T. and Kosaka, K., Subtype analysis of neuropathologically diagnosed patients in a Japanese geriatric hospital. J. Neurological Sciences, 196: 63-69, 2002


先天異常・新生児・小児医学

新生児敗血症は治療法の進歩にもかかわらず、時として致死的でありNICUにおける重要な疾患のひとつである。その病態にはグラム陰性桿菌の菌体外毒素であるendotoxinや様々なcytokineのみならず、anandamide、2-arachidonylglycerolなどの因子が影響を与えていることがわかってきている。近年、成人領域において敗血症患者にendotoxin吸着カラムを体外循環によって導入することにより病態の改善が見られるとの報告があり、臨床応用もされている。しかしながらそのカラムを新生児に用いるためにはpriming volumeの問題等もあり、すぐに応用することは出来ない。我々は、新生仔豚を用いて敗血症モデルを確立することからはじめ、そのモデルを用いて新生児用のendotoxin吸着カラムによる生存率、血行動態、血中endotoxin量、cytokine量等の変化を検討し、臨床応用を目標とする実験を行っている。


神経機能回復学

1. Aihara, N., Imamura, N., Kimura, T., Yamada, K., Hida, H., Nishino, H., Ueda, T. and Shimada, S., Intracerebral hemorrhage upregulates Na+/myoinositol cotransporter in the rat brain. Neurosci Lett, 327: 21-24, 2002


実験動物研究教育センター

1. Hirabayashi, M., Kato, M., Aoto, T., Sekimoto, A., Ueda, M., Miyoshi, I., Kasai, N. & Hochi, S., Offspring derived from intracytoplasmic injection of transgenic rat sperm. Transgenic Res., 11: 221-228, 2002

2. Kitamoto,T., Mohri, S., Ironside, J.M., Miyoshi, I., Tanaka, T., Kitamoto, N., Itohara, S., Kasai, N., Katsuki, M., Higuchi, J., Muramoto, T. & Shin, R.-W., Follicular dendritic cell of the knock-in mouse provides a new bioassay for human prions. Biochem. Biophys. Res. Commun., 294: 280-286, 2002

3. Sueta, T., Miyoshi, I., Okamura, T. & Kasai, N., Experimental eradication of pinworms (Syphacia obvelata and Aspiculuris tetraptera) from mice colonies using Ivermectin. Exp. Anim., 51: 367-373, 2002

4. Miyoshi, I., Takahashi, K., Kon, Y., Okamura, T., Mototani, Y., Araki, Y. & Kasai, N., A mouse transgenic for murine oviduct-specific glycoprotein promoter-driven simian virus 40 large T-antigen: Tumor formation and its hormonal regulation. Mol. Reprod. Dev., 63: 168-176, 2002

5. Cheng, J.-M., Ding, M., Miyamoto, T., Fujimori, O. & Agui. T., Investigation of post-transcriptional events of the thyroglobulin in the thyroid gland of the hypothyroid growth-retarded mouse DW/J-grt. Nagoya Med. J., 45: 133-143, 2002

6. 永井真貴子、青木正志、糸山泰人、三好一郎、笠井憲雪:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新しいモデルとしてのトランスジェニックラットの作製、アニテックス14:189-192, 2002

7. 三好一郎:SNPやDNAチップの臨床獣医学への応用、宮城県獣医師会会報55:97-102, 2002